15. ビジネスとしてのディーリングルーム

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Once a dealer, always a dealer.(ディーラーは3日やったらやめられない) 厳しい仕事ではあるのですが、これほど白黒のはっきりとでる仕事も少ないでしょう。「買って下がれば負け」という潔さに惹きつけられる人も多いのです。大きな経済の仕組みのなかで何らかのお役にもたっています。未来を模索する仕事でもあります。人には先のことがわかりません。先が見えないからこそ、やりがいがあるともいえます。しかし、そんな抽象的なことだけではビジネスとしてはいかにも心許ないと思われる方もいるでしょう。ここではどのようにしてディーリングルームをビジネスとして成り立たせるかを議論しましょう。個人投資家の方々にも、市場の内側を知る上で参考になるかと思います。

多くのディーリングルームで未だ一般的に行われているのが、大手ファンドのフローを取るためのセールスを雇う。フローが取れれば同じ方向にポジションを持つ。そういった処理が得意なトレーダーを雇うというようなことです。ところが現在は電子ブローキングの進展や、金融機関相互のクレジット・リスクへの警戒感から流動性が落ちています。その為大手ファンドとの取引をカバーし、自分のポジションができあがった時には、とても儲からないコストになってしまっているのです。

またセールスがフローを取るにも、本来はアイデアなどの附加価値を売ることにより、こちらに流動性上の優位を与えてくれるフローが必要なのですが、顧客に流動性をただで供給するようなセールスをしています。つまりアイデアさえよければ多少は価格にこだわらないというビジネスが欲しいのに、他社より安いことだけを売り物とするようなビジネスです。これではフローを取れば取るほど損失が膨らむのです。

相場観やトレーディングのアイデアというのは問屋の仕事にたとえると、売れ筋商品を見つけ品数を確保することかもしれません。大手ファンドのフローを重視するのは、売れ筋商品を知るのに大手スーパーやディスカウンターと取引きするようなものでしょう。大手スーパーが欲しがるものが売れ筋というわけです。しかしファンドや大手スーパーは価格支配力があり、なまじっかなディーラーや問屋より商品を安く仕入れることができます。当然そことのビジネスはやればやるほど損が膨らむのです。またいくつもの大手ファンドが破綻していることでも分かりますように、彼らの相場観とて当てにならない点では市場心理と大差はありません。彼らと同じ売れ筋商品と信じた物を買い占めたところで、儲かる保証などどこにもないのです。ディーリングルームを預かるプロならば自分なりの相場観くらい持っていて貰いたいものです。

このディーリングというビジネスで収益を上げるには、
 1)流動性で優位をとる
 2)オリジナルなアイデアで勝負する
 3)他人のアイデアも含めた情報を早くとる

この3つを、いかにバランス良く達成できるかにかかっています。

1)の流動性は、信用力と密接に結びついています。Xと取引を拡大したい。Xに十分な資金供給をしたいということは、Xの信用力の表れでしょう。流動性で優位をとるとは、顧客よりも低利でふんだんな資金を有し、有利なプライスを得ることを意味します。信用力に勝れば優位が取れます。たとえば、問屋は小売りよりも流動性において優位にありました。安く仕入れたものを高く売れるのです。この場合は、規模の拡大がそのまま収益に結びつくでしょう。そのうち大手スーパーやディスカウンターのような、自分よりも流動性に勝る小売りの出現が、問屋を苦況に押しやりました。私たちの金融ビジネスでも、顧客よりも信用力があれば問題ありませんが、そうでなければ、他の2つに重点を置かざるをえないでしょう。

オリジナルなアイデア、すなわち独創的なアイデアは、すべてのビジネスの基になります。アイデアが良ければ、割高なプライスでも納得してもらえます。流動性で優位をとったのと同じ効果があるのです。もちろんそのアイデアは、自己勘定の取引きにも使えます。相場観を組み立てたり価格の歪みを見つけることも、一種の技術といえるでしょう。

他人のアイデアも含め、情報は多いほど、正確なほど良いのは言うまでもありません。しかしより重要なのは、その情報が正確である、価値があると見抜く力です。その情報を消化し活かす力なのです。これには経験と、そのための訓練がものをいうはずです。

市場というシステムを支える両輪が実需筋と投機筋であるように、ビジネスとしてのディーリングルームではディーラーとセールスとが両輪となります。

セールスチームは、顧客のニーズを汲み上げる必要があります。
顧客のニーズがわかれば、新商品の開発ができます。また、AのニーズとBのニーズとが反対方向でぴったりと合えば、スワップなどのように、組み合わせるだけで収益につながります。顧客Aで余っているものを、顧客Bの足りないところにあてて、顧客Bに余ったものを顧客Aに渡す。これに期間を限定して、元に戻す約束をしたのがスワップです。通貨のスワップや変動金利と固定金利のスワップなど、すべて原理は同じで、どちらか損をする方が相応の見返りを受け取るのです。

また、顧客のニーズがわかっていれば、流動性のない商品でも扱うこともできます。流動性のない商品は、ビッド・アスクが広いので、収益性は高いのですが、転売のリスクがありなかなか扱えないのです。そんな商品でも、顧客のニーズに合っているのなら、あえて取り扱うこともできるのです。


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矢口 新

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