株を極める!
リスク管理・資金運用 プロのノウハウ
はじめに
「少子高齢化社会」の到来で、寿命は延びたが年金は減るという、老後の生活にも「自己責任」という言葉が切り離せない、何ともやりきれない時代がやってきました。
政府や年金運用者の失政や怠慢、能力不足が拍車をかけたのでしょうが、人口構成を見れば、年金システムがいつか破綻するのは誰にでもわかります。
退職後をどう過ごすのか――ひと頃いわれていた、退職後のために趣味を持つ、などという悠長なものではなく、退職後の生活資金をいかに工面するか――これも自己責任の範ちゅうです。
一方、年金システムを支えるはずの若者は、新卒での就業機会もままならず、企業の庇護なしでいきなりの“自己責任”状態に放り出されるのです。
そういう時代ですから、「専業主婦」という言葉も、21世紀初頭でその実体をなくしてしまうのかもしれません。
バブル崩壊後、しばらく忌み嫌われていた「投資」という言葉が、ここにきていよいよ復権しつつあります。ちょっと大きな本屋さんに行けば、さまざまな株式投資の本が並んでいるのを見てもわかります。
とはいえ、バブル前とバブル後との顕著な違いは、投資という言葉が「自己責任」という言葉と強く結びついていることです。もはや、証券会社の営業マンの言いなりでも儲けることができる、と信じている人はいないでしょう。
年配の方々は、退職後の生活設計の有力な一つの選択肢として、これまでの人生経験を生かすこともできる株式投資に目を向ける時が来たと思います。
経済的な自立を目指す主婦の方々や、自分のやりたいことや適性がいまだ見つけられない若者たちにとっても、果たして自分にできるかできないのか、投資というものに一度は本気で取り組んでみることをおすすめします。
また、サラリーマンにとって、一つの会社に勤めることは、もっぱらその会社からのリターンを期待するということです。それに加えて他社の株式を買えば、他社からのリターンも期待できることになり、これは「リスク分散」の意味を持ちます。
株式投資と聞くと、初心者ほど、何やらリスクの大きさばかりが目につくでしょう。リスクを強調されると腰が引けるのもうなずけますが、実は、これはすばらしいことなのです。
おおよそ生きている限り、私たちの生活はさまざまなリスクに曝されています。事故や災害のリスクはもちろんですが、安定した職場、安全な預貯金などと思われるものにも、実のところはリスクがいっぱいです。
そういった、一見しただけでは“ない”ように思えるリスクは、リスクの所在がはっきりしないだけに対処が難しく、「気づいたときには手遅れ」などということも起こります。
その点、株式投資のリスクはむしろわかりやすく、それだけに対処のしかたも容易です。どのように対処するのか、つまり「リスク管理」の方法をきちんと学びさえすればいいのです。
運用のしかたもさまざまです。四六時中パソコンのモニタを見つめ、1日のうちに何回も売買するデイトレードから、1週間に1、2回だけの売買、あるいは株式や債券など異なった資産からなるポートフォリオを構築して、3ヵ月に1回「リバランス(ポートフォリオの資産バランスを見直す)」するだけ、という投資法もあります。
運用のしかたに応じて、当然、リスク管理の方法も変わってきます。
ほとんどの投資関係の本が言葉足らずなのは、株式や債券、通貨といった投資物件を分析したり、投資手法の解説はしてくれるのですが、投資を行なう自分自身を分析していない点です。
心理学を用いて、自己分析を試みているものも見かけますが、自己の心理だけで対処できるほど、世の中も相場も甘くありません。
孫子の兵法に「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」という言葉があります。
「敵を知らずとも己を十分に理解すれば勝ち目も十分にあり、己を知らなくても敵を知っていれば勝ち目は少なからずある。どちらも知らなければ勝敗は天に任せるしかない」と続きます。
これを資金運用に置き換えると、「敵」とは「相場の動き」と考えていいでしょう。一方の「己」とは「自分自身」ですが、自分の性格や心理状態を分析する前に知っておきたいことがあります。
兵法での「己」が、気力などではなく、自己の客観的な戦力であるように、相場での「己」は、自己資金の「性質」だということです。
戦における劣った戦力での奇襲は、あくまで“奇”襲であるだけでなく、その奇襲ですら、成功するにはそれだけの条件を満たす必要があります。
相場でも、気力や技術がいかに卓越していようと、資金の「性質」による制限を超えることはできないのです。
孫子の言葉を資金運用に当てはめると、「相場を知らずとも自己資金の性質を十分に理解すれば勝ち目も十分にあり、自己資金の性質を曖昧にしたままでも相場を知っていれば勝ち目は少なからずある。どちらも知らなければ勝敗は運に任せるしかない」となります。
そして「相場を知り、自己資金の性質を理解すれば百戦危うからず」という域に達することも十分に可能なのです。
したがって、本書では、自分が使っている資金の性質に応じた相場への取り組み方を解説していきます。
スポーツにおける誤解は、「とにかく一所懸命練習すればうまくなる」というものです。しかし、間違った練習方法では、うまくなるどころか逆に変な癖がついて伸び悩みます。怪我や早期引退の原因にすらなります。
やればやるほどうまくなる練習とは、「基本に忠実な練習」でしょう。相場も同じで、基本さえ固まっていたなら、経験はそのまま実力(私は「相場力」と呼んでいます)となります。
初心者の方は、本書を通じて「プロの基本」「正しい基本」を学んでください。プロ、セミプロの方は、本書でもう一度初心に返って、基本を確認してください。
繰り返します。基本さえできていたなら、やればやるほどうまくなるのです。
2005年9月
矢口 新
目次
はじめに
第1章●「投資」と「投機」を区別する
1、株式会社の誕生
2、儲けを実現するまでの時間
3、資金の性質を知る
4、投機と市場分析
5、あなたは「投資家」か、それとも「投機家」か
第2章●相場は、投資と投機が綾なすタペストリー
1、ポンドを売り崩した男
2、トレンドとボラティリティ
3、ヘッジファンドは時間に拘束される
4、過度の振幅はファンダメンタルズを傷つける
5、投資がトレンドをつくる
6、実需か仮需かを見極める
7、実需が価格に与える影響
8、投資は横糸、投機は縦糸
第3章●投資家のリスク管理、投機家のリスク管理
1、保有かキャピタルゲインか
2、投資家と投機家とのリスク管理の微妙な違い
3、株式投資における「再投資リスク」
4、市場における投機筋の役割
5、損失は“技術”で防げる
第4章●ロスカット・ルールの作り方
1、中長期投資は安全か
2、短期売買に徹すればリスクは減る!?
3、自己の資金にあったリスク管理
4、相場は現代における「戦(いくさ)」か
第5章●利食いと損切り
1、ナンピンは一か八かの大博打
2、ナンピンと損切りのメカニズム
3、つなぎ売りで利益を確定させる
第6章●テクニカル指標による売買の判断
1、「素」のチャート
2、トレンドラインと投機的売買
3、移動平均でトレンドを知る
4、オシレーター系のテクニカル指標
5、一目均衡表
6、パラボリックとボリンジャーバンド
7、「素」のチャートとテクニカル指標の使い分け
8、ドテンか清算か
第7章●「材料」による売買の判断
1、為替市場を動かす材料
2、株式市場を動かす材料
3、材料分析の意味
4、材料分析の実例ー為替相場編
5、材料分析の実例ー株式相場編
第8章●裁定取引(サヤ取り)におけるリスクヘッジ
1、両建ての基本
2、サヤ取り
3、先物・オプションを使ったヘッジ
第9章●ファンダメンタルズとテクニカル
1、投資家にとってのファンダメンタルズ
2、投機にとって、ファンダメンタルズは単なる材料
3、テクニカル分析はパターン分析という科学
4、ノーベル賞学者が陥た罠
終章●運用姿勢ーあとがきに代えて
1、リスク分散の考え方
2、負けることを恐れるな!
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