実践 生き残りのディーリング
ー変わりゆく市場に適応するための100のアプローチー
はじめに
投資教育がさかんになってきました。社会人や主婦向けのセミナーや勉強会だけでなく、小中学生を対象としたものも出始めています。私たちの日々の生活に密着している金融や資本市場の役割を、すべての人が正しく理解することは大切なことです。私も、本書がみなさんの金融商品や資本市場に対する理解の一助となり、みなさんが自分自身で相場に親しむようになってくれることを願っています。
私は、個人が相場にたずさわることの究極の目的は、自分の可能性を広げることだと思っています。知識が増え、経験が増え、資金力が増えることは、可能性の拡大につながります。これが、儲けることだけが目的となると、ルールをないがしろにしたり、ルールの範囲ならば何をしてもいいという考え方におちいります。そうなると、資金力は増えても、信用されない人となり、かえって自分の可能性をせばめてしまうのです。
お金は人を幸せにもしますが、不幸せにもします。たとえば5万円のディナーを食べるとき、月収が20万円の人と、日収が20万円の人の、どちらがより大きな幸福感を味わえるでしょうか?
5万円のディナーは、1回の食事としては最高級のものに属します。それでも日収の4分の1でしかなく、日常のありきたりの幸福感しか味わえないとすれば、お金はその人の幸せを多少なりとも奪ってしまっています。もちろん、もっと高価なディナーを味わうことは可能ですが、いきつくところは、限りなくゲテモノに近くなっていきます。食事だけではありません。だれかさんのように高級外車を色違えで何台揃えても、また、だれかさんのようにとっかえひっかえ芸能人とデートしても、お金があるために、もっと選択肢が広がったような気がして、「かけがえのない」幸福感からは遠ざかるのです。
お金で幸せになりたいのなら、幸せになる方法で、お金を増やさねばなりません。好きな仕事がお金に結びつくことが一番です。相場でお金を儲けるにも、幸福感の味わえるやり方を見つける必要があります。一発勝負ではなく、長く続けられるやり方をみつけることは、すぐに大金に結びつくことがなくても、自信や満足感につながります。幸せになれる方法なのです。
相場に真正面から向き合い、日々研鑚していると、知識が増え、経験が増え、それなりに資金力が増えていきます。運がよければ、大儲けもできます。また、相場はある意味戦いの場ですから、真正面から向き合っていると、先輩、同輩、後輩、あるいは取引先のなかに、戦友とも呼べる、頼りになる仲間ができてきます。これらすべてが、自分の可能性を大きく広げるのです。
本書はもともと、プロのディーラー向けに書いたものです。したがって、項目によっては、一般の人にはピンとこない部分があると思います。その部分は読み飛ばしてください。残りの部分だけでも十分に価値があります。そして、いつの日かベテランになって、プロの考え方や動向に興味がでてきたときに、もう一度読み返してください。新たな発見があることと思います。
1990年出版の本書の「オリジナル」はプロの債券ディーラーであったときに、2001年の「決定版」は為替や債券のプロのディーラーを引退してから、書いています。したがって、取り扱う市場の中心は為替や債券市場です。その後、株式での資産運用やトレーディングを行い、株に関するいくつかの書物も書きました。この「実践・生き残りのディーリング」は、オリジナルや決定版の主旨を保ち、できるだけ元の文章を残していますが、株式をより多く反映するようにしています。また決定版作成時に、紙面の関係上削られた部分で、重要だと思われるところや愛着のあったところを復活させています。もちろん、新に書き加えたところもたくさんあります。
オリジナルが多くのディーリングルームに置かれ、若手ディーラーの座右の書として、必要に応じて読み返されていたことから、本書も、決定版同様、100項目の見出しをつけ、折に触れて読み返すのに便利なようにいたしました。また、一般の人が専門用語をその場で解決できるように、脚注を充実させました。専門用語を一般の言葉にあえて書き換えることをしなかったのは、いつか覚えねばならないことだからです。
だれしもいい時ばかりではありません。相場も取ったり取られたりの繰り返しです。うまく行かないときは、しっかりリスクを管理してしのぐのです。いい時は必ずきます。そのときの為に、知識と経験を積み上げ、資産を保っておきましょう。
本書の出版にあたっては、パンローリングの後藤泰徳社長、編集の世良敬明氏、両氏の多大なるご協力を得ました。ここに感謝の意を表します。
矢口 新
目次
はじめに
第一章 相場とは何か
01 世の不条理が狙い目
02 初めに言葉ありき ―シナリオを立てる―
03 見ているものが違う
04 ゼロというポジション
05 スクウェアというポジションはない
06 小さな資金でも相場は動く
07 混沌のなかに秩序をさぐる
08 チャートの秘密
09 ポジションを読むということ
10 需給が教えてくれるもの ―ネットで計る―
11 相場はギャンブルではない
12 50%の確率でしかないのか
13 投機筋にできること
14 投機とマーケットメイキング
15 ビジネスとしてのディーリングルーム
16 相場における自己責任
17 売り買いの判断
18 年金資産に外貨は必要か?
第二章 自己資金の性質とそのリスクを理解する
19 敵を知り、己を知る
20 自己のポジションを診断する
21 投資と投機 ―タペストリー第二理論―
22 商品の流動性
23 流動性でつまずいた人たち
24 流動性の落とし穴
25 「見越し売買、堅く戒む」という教え
26 相場に聞くということ
27 相場の節目を見過ごすな
28 大底を浚う
29 窓埋めの神秘
30 荒れ相場のリスク
31 アンテナを高く
32 オープンインタレスト
33 三つのリスクを理解する
34 リスク管理
35 守りの一銭、攻めの一銭
36 アウトライトとアービトラージ
37 自分のタイムスパンに合わせる
38 流れにつく ―トレンドをおさえる―
39 高値売ろう安値買おうは損の元とは言われても
第三章 機先を制す
40 シナリオをたてたら、機先を制す
41 自分の間合いで戦う
42 フェアバリューのくずれを狙う
43 割高を売って割安を買う
44 市場心理を利用する
45 ポジショントークはこう聞く
46 Buy the rumor, sell the news
47 順張りか逆張りか
48 指値は是か否か
49 飛び込み ―今日の高値は明日の安値―
50 高値波乱は受けてみる
51 値ごろ感に要注意
52 値ごろよりも日柄
53 レベルにきたときがタイミング
54 押し目買い、戻り売り
55 買いたい弱気
56 回転を利かす
57 買い乗せは2回まで
58 レンジ相場 ―効果的な「量のディーリング」―
59 動くとき、動かぬとき
60 総ロングになってSo Long―Buy Buy で Bye Bye―
61 相場の基本は日計りから
62 要は踏み込むこと
63 躊躇するものは負ける
64 Always long on the top
第四章 価格変動の本質
65 プライスアクション理論
66 価格変動の本質 ―タペストリー第一理論―
67 価格変動の本質を見ない価格維持政策
68 法を越えず
69 落ちがないと決まらない ―バブルは必ず崩壊する―
70 価格上昇期待の魅力
71 もう一歩踏み込めるか
72 修羅場に慣れる
73 ギブン、テイクン
74 構造的に動かされる
75 理論と実践の隙間
76 動きながら考えろ
77 構えありて構えなし
78 ヘッジの考え方
79 時間との戦い
80 ゼロサムゲーム
81 踏みと投げ
82 安易な選択 ―恐いディールしか儲からない―
83 リスクとリターン
84 しのぎ方
第五章 見切りと再起
85 見切りと再起
86 損切りの徹底
87 受け身の理 ―備えあれば憂いなし―
88 今回だけは特別か ―起死回生を狙うな―
89 自らを針のむしろに追い込んだ人たち
90 なんぴん買いの効用
91 3勝7敗のディーリング
92 利食い千人力 ―簡単に利食うな、確実に利食え―
93 リスク分散の考え方
94 イメージトレーニング「良いときのビデオ」
95 人に勝つよりも自分に勝て
96 ピンチとチャンスは背中合わせ
97 自由契約
98 My word is my bond
99 ポジションもってなんぼ ―踊る阿呆に見る阿呆―
100 得意なものと、好きなもの
おわりに ―大底で起きていること―
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